第一次大戦以後のレジェの芸術は、相対立する(あるいは対立するかに見える)存在を一つの画面の中で調和させることに捧げられた。例えばモナ・リザと鍵束といった具合である。彼はその緊張的調和の方法をコントラストと呼んだが、彼のコントラストの理念は造形的目的から遂には宇宙的範疇にまで拡大する。彼の夢見た理想世界というものは、近代機械化文明と素朴な人間生活の調和であった。一般に知識人たちが、高度に機能化して行く近代世界での人間性の将来を憂慮する中で、レジェのみはそうした世界で逞しく生きる人間の可能性を期待した殆ど唯一の画家である。1913年にアポリネールが、「彼(レジェ)は人類が古代から持ち続けてきた本能とわが民族の本能に反発して、自分が生きている現代文明の本能に、喜んで専念した最初の画家である」と評した時、彼はすでにレジェの本質を予言していたのである。《赤い鶏と青い空》は、第二次大戦の戦禍を避けていたアメリカから母国に帰った晩年のもので、あの壮大な構成力はすでにないが、空の青と鶏の赤、自然と機械の断片といった取り合わせに、彼のコントラストの理念が生きている。 (出典 国立西洋美術館ホームページ)
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