ファンタン=ラトゥールの絵画作品を主題の上から見ると、肖像画、静物画、寓意的構想画という三つの分野が大部分を占めていることが分かる。その中でも静物画は、ファンタンがとりわけ情熱を注ぎ、生涯に渡って手掛けた分野である。
初夏の果物や花をモティーフにした西洋美術館の作品は、そうした数多い静物画の中でも、比較的初期に制作され、極めて高い完成度を持つ点で特筆される。正方形に近いプロポーションを持つ画面は、ファンタンのこの種の静物画の中では大型と言ってよい。食卓布を敷いたテーブルの上に様々な物を置く構成は、17-18世紀に遡る伝統的手法である。また、ワインの入ったガラス容器、花瓶に挿された花や果物の取り合わせも決して先例のない構成とはいえない。
しかし、背景の暗褐色の空間とテーブルを被う真っ白い食卓布の簡素な対比、白い布の上に重ねて置かれた白い陶器皿と白い花の洒落た趣向はこの画家ならではのものである。また、ガラスのワイン容れや花瓶、皿の硬質なイメージに対する、花や果物の触覚的イメージの鮮やかな対比は極めて近代的である。
1860年代には、ファンタンの僚友とも言うべきマネ、モネ、ルノワールら多くの画家たちが静物画に手を染めているが、とりわけマネの作品にはモティーフや構成など多くの点でファン夕ンの静物画との関連性が見られる。特に、この画面に見られるような新鮮な時間の感覚を画面に導入したことは、両者に共通している。
(出典 国立西洋美術館ホームページ)
|