ドーミエは演劇の世界に深い関心を抱いていた。大道芸人(サルタンバンク)、劇場の舞台裏の人々の表情、精いっぱい気どった観客のブルジョワたち、舞台上のシーンに一喜一憂する観客などを、巧みなタッチでリトグラフに表わし、油彩でも描いている。
この油彩画では人々の姿はシルエットで描かれているため、表情はあまりはっきりとは読みとれない。華やかな正面棧敷を背景に、この黒い服の一団は乗り出すようにして左手前方を見つめている。簡潔な横顔のシルエットとポーズだけで観客の熱中した様を描き上げている。このような表現は、人々の顔やポーズを深く研究し、社会的地位、性格、感情をそれらによって表わそうとしたドーミエならではのものである。
(出典 国立西洋美術館ホームページ)
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