コローは生涯に三度イタリアに旅行しているが、彼が本作品の主題であるナポリを訪れたのは最初の遊学の際のただの一度に過ぎず、しかもかなり短期間であったと推定される。本作品はこのナポリ旅行に想を得た作品としては年代的に最後に位置し、コローの晩年の画風を如実に示している。彼の作品としては大作に属し、それも縦長の画面を大胆に用いて、両側に高く、葉が煙るように揺れる樹木を配し、遠方に明るいナポリの浜を描くという熟考された画面構成を示す。木蔭をなす前景では幼児を抱いた女とタンバリンを左手にかかげた女が手をつないで踊っている。このようなモティーフは《ナポリの周辺》にも見られたが、本作品の場合は、それに加えて銀灰色の微妙なニュアンスが画面全体を支配しており、いかにも追憶の光景に相応しい雰囲気が醸し出されている。
(出典 国立西洋美術館ホームページ)
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