1842年、ドラクロワはノアンにあった、当代随一の女流作家ジョルジュ・サンドの邸に招かれ、彼女が使っていた農婦とその娘をモデルにして《聖母の教育》(聖母マリアの母アンナがマリアに旧約聖書の読み方を教えている場面)と題する油彩画を描いた。この作品はその10年後に同じ主題で描かれたもので、画面はひとまわり小さくなっているが、背景への関心が増し、また犬も加えられている。一般にドラクロワの作品といえば華麗な色彩と力強い動感に満ちたドラマティックな大作を連想し、またそうした作品にこそ彼の本領は遺憾なく発揮されたが、深い緑を主調として、全体に夜想曲のような静かな安らぎをたたえた本作品は、幅広い彼の芸術のまた別の一面を示している。 (出典 国立西洋美術館ホームページ)
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