横長の画面一杯に描かれた麦畑と働く人々。遠くに見える地平線は画面の上方から四分の一程のところに置かれている。画面に見えるのはパリ郊外の静かな村ポントワーズにおける麦の刈り入れ風景である。すでに1840年代から、パリと鉄道で結ばれていたこの付近には若い画家たちが住みはじめていた。1866-68年、1872-82年の二度に渡ってアトリエを構えた印象派の画家ピサロも、そのひとりであった。
ピサロの第二回ポントワーズ滞在の最後を飾る本作品は、第七回「印象派展」に出品されたもので、この時期のピサロの特徴を幾つか認めることができる。その一つは人物の扱いである。それまで風景の中の小さな添景でしかなかった人物の姿は80年代になると画面で大きな役割を果たすようになった。そして時には、単独または複数の人物がクロース・アップされ、心理描写も導入されるようになるのである。
この画面で言えば、手前左手の刈り取った麦の束を抱え持つ農婦やそのすぐ傍らの屈み込む農婦の姿は、以前のピサロの作品には見られなかった要素である。それはつまり、画家が印象派本来の自然主義的で客観的な均衡のとれた世界から一歩踏み出し、画面に新たなダイナミズムを持ち込もうとしたことを意味している。
この作品には、多くの水彩やチョークによる習作が残されており、長時間をかけて入念にアトリエで制作されたことが想像される。これもまた、通常比較的短時間のうちに描かれることの多い「印象派的」な制作法とは一線を画するものと言えよう。
(出典 国立西洋美術館ホームページ)
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