森の中に、草木や木々に囲まれて立つ女性。縦長のカンヴァスに、きわめて装飾的な構図で描き出された画面は、ナビ派の画家としてのランソンの芸術の特徴をよく表している。画面の四周にはタピスリーの飾り縁のような枠取りがあり、この作品がタピスリーの下絵として制作されたことを想像させる。絵画自身がもつ平面的特性とそれにともなう装飾性を強く意識したナビ派の画家たちにとって、中世以来のタピスリー芸術は最も学ぶべき手本のひとつであった。 画面前景に大きく描かれた、赤紫色の釣鐘状の花をもつゴマノハグサ科の植物ジギタリス(キツネノテブクロ)は、その葉が強心剤として古くから用いられた薬草である。ここでは生命溢れる植物の繁茂を通して、ナビ派の装飾的美学が実現されている。
(出典 国立西洋美術館ホームページ)
|